平和を学ぶ、平和を創る

「地域課題」を切り口にした平和学習:参加型ワークショップ事例と応用へのヒント

Tags: 平和教育, 地域活動, ワークショップ, 参加型学習, 多世代交流, 共生, NPO

身近な地域課題から平和を考えることの重要性

私たちが暮らす地域には、様々な課題が存在します。高齢者の孤立、地域の環境問題、異なる文化を持つ人々との間の理解不足、子どもの遊び場不足など、その内容は多岐にわたります。これらの身近な課題は、時に人々の間で意見の対立を生むこともありますが、見方を変えれば、多様な人々が共に生きる社会のあり方や、課題解決に向けた対話と協力の重要性を学ぶ絶好の機会となります。

平和とは、単に争いがない状態だけを指すのではなく、一人ひとりが尊重され、共に生きる社会を積極的に創り上げていくプロセスでもあります。身近な地域課題に目を向け、多様な背景を持つ人々が共に考え、解決策を探る活動は、まさにこの「平和を創る」実践に繋がります。

ここでは、身近な地域課題を平和教育の入口とし、参加型ワークショップを通じて多様な視点の理解と共生意識を育んだ実践事例をご紹介し、読者の皆様の活動に応用可能なヒントを探ります。

実践事例:「私たちのまちを考えるワークショップ」

活動の概要と目的

この事例は、架空の地域NPO「まちづくりサポーターズ」が企画・実施した「私たちのまちを考えるワークショップ」です。主な目的は、参加者が自身の暮らす地域に対する「気になること」や「こうなったら良いな」といった課題や希望を率直に共有し、異なる立場や世代の視点に触れることでした。その過程で、地域には多様な声やニーズがあることを学び、一方的な正解がない複雑さを理解すること、そして、自分たちに何ができるかを共に考えることで、共助の精神や地域への主体的な関わりを促し、結果的に共生意識を高めることを目指しました。これは、平和教育における「多様性の理解」「非暴力的な対話」「主体的な社会参加」といった要素と深く関連しています。

対象者と実施場所

ワークショップの対象者は、地域に暮らすあらゆる人々です。小学生から高齢者まで、また、近年増加している外国人住民にも参加を呼びかけました。これにより、普段交流する機会の少ない多様な人々が集まり、互いの存在や考えに触れる機会を意図的に創出しました。実施場所は、地域の公民館やNPOの運営する交流スペースなど、参加者が気軽に立ち寄れる身近な公共施設を利用しました。これにより、特別な場所を用意する必要がなく、低コストでの開催が可能となりました。

具体的な手順

ワークショップは、以下のような手順で進められました。

  1. 導入(30分):
    • 簡単な自己紹介やアイスブレイクで場の雰囲気を和らげます。参加者同士の緊張をほぐし、話しやすい環境を作ることが重要です。
    • ワークショップの目的と趣旨を丁寧に説明します。「このワークショップは、地域に対する率直な思いを共有し、互いの考えを知り、共にできることを探る場であること」「特定の誰かを非難するのではなく、建設的な対話を目指すこと」などを伝えます。
  2. 課題出しと共有(60分):
    • 参加者一人ひとりが、「私のまちで気になること」「もっとこうなったらいいなと思うこと」を付箋に書き出します。低コストで手軽に行える方法です。具体的な出来事や場所、人物について書いてもらうことで、抽象論ではなく具体的な課題が見えてきます。
    • 書き出した付箋を模造紙などに貼り、「環境」「高齢者」「子育て」「多文化」「交通」など、大まかなテーマごとに分類していきます。参加者全体で分類作業を行うことで、地域の課題には様々な側面があることを実感します。
    • いくつかの小グループに分かれ、各自が出した課題や希望について共有します。この際、ただ発表するだけでなく、「なぜそう思うのか」「その背景には何があるのか」といった問いかけをファシリテーターや他のメンバーが行い、表面的な課題の裏にある構造や感情、多様な経験に目を向けることを促します。
  3. 課題の深掘りとアイデア出し(90分):
    • 各グループで共有された課題の中から、特に重要だと思われる課題や、参加者の関心が高い課題をいくつか選びます。
    • 選ばれた課題について、さらに深掘りします。「その課題によって、誰がどのような影響を受けているのか?」「いつからその課題があるのか?」「過去に解決しようとした取り組みはあったか?」など、多角的に考えます。異なる世代や背景を持つ参加者からの視点を取り入れることで、課題の複雑さや多様な影響が見えてきます。
    • 選ばれた課題に対し、「自分たちにできること」「地域でできること」といった解決策のアイデアを自由に発想します。「もし魔法が使えるなら?」といった問いかけも交えながら、現実的な制約にとらわれず、多様なアイデアを引き出します。ここでも付箋と模造紙を活用し、アイデアを可視化します。
  4. 全体共有とまとめ(30分):
    • 各グループがアイデアを発表します。発表に対して質問したり、感想を述べたりする時間を設けます。
    • ファシリテーターが、ワークショップ全体を振り返り、出された課題やアイデア、そして対話のプロセスの中にあった「多様な視点の理解」「共生」「協働」といった平和教育に通じる要素を言語化して参加者に伝えます。例えば、「高齢者の困りごとは、若い世代には見えにくいことがある。互いの立場を知ることが大切ですね」「外国人住民の方が感じている壁は、私たちが気づいていない地域の側面を教えてくれます。異文化理解は、単に知識として知るだけでなく、地域で共に生きる上で互いを支え合う基盤になります」など、具体的な対話の内容に触れながら解説します。
    • 今後の活動につながるような、小さな一歩や、参加者同士の緩やかな繋がりの可能性について触れて終了します。

使用したツールや資料

使用したのは、模造紙、付箋、油性ペン、タイマーなど、身近にある安価なものばかりです。特別な資料は用意せず、参加者自身の言葉や経験を引き出すことに重点を置きました。外国人住民のために、付箋に簡単なイラストを添えたり、主要な単語リストを多言語で用意したりといった配慮も検討しました。

参加者の反応と成果

参加者からは、「普段話さない世代の人と話せて良かった」「同じまちに住んでいても、こんなに違う感じ方をしている人がいることを知った」「漠然と感じていた地域の課題が整理できた」「自分にも何かできることがあるかもしれないと思えた」といった肯定的な感想が多く聞かれました。

成果としては、参加者間で地域課題への共通認識が生まれ、異世代・異文化間の自然な対話の機会が創出されました。また、ワークショップで出たアイデアの中から、後日、地域の清掃活動や、高齢者向けの情報共有会など、小さなコミュニティ活動に繋がった事例も見られました。何よりも重要な成果は、参加者が「共に考え、行動すること」の可能性を感じ、地域への主体的な関わりへの意欲を高めたことと言えます。

直面した課題と克服のための工夫点

多様な意見が出すぎるあまり、議論が拡散してしまったり、特定の課題に焦点が絞りきれなかったりする課題がありました。また、一部の積極的な参加者の意見に偏ってしまう可能性や、普段発言慣れしていない参加者の声を引き出す難しさも感じられました。単なる「地域の不満を言い合う場」になってしまうリスクもゼロではありませんでした。

これらの課題を克服するために、以下の工夫を行いました。

読者の活動に応用するための具体的なヒント

この事例から、地域で平和教育を実践する上で応用可能なヒントをいくつか抽出します。

まとめ

身近な地域課題を入口とした平和学習は、特定の知識を教え込むのではなく、参加者自身の経験や視点に基づき、対話を通じて学び合うことを重視します。このアプローチは、多様な背景を持つ人々が共に生きる上で不可欠な、他者への想像力、異なる意見への寛容さ、そして共に課題を乗り越えようとする協働の精神を育みます。

地域で活動されている皆様が、日々の活動の中で感じる課題や、取り組んでいるテーマの中に、平和を学ぶ、平和を創るための豊かな可能性があることにお気づきいただければ幸いです。今回ご紹介した事例やヒントが、皆様の地域での実践の一助となれば嬉しく思います。共に、私たちが暮らす地域から、平和でより良い社会を創り上げていきましょう。