地域図書館を「平和を学ぶ場」にする:資料・空間活用事例と応用ヒント
平和や共生を学ぶ場というと、学校や公民館などを思い浮かべることが多いかもしれません。しかし、地域に根差し、多様な人々が集まる公共空間である図書館もまた、平和教育の重要な拠点となりうる潜在力を持っています。この記事では、地域図書館が持つ資料や空間を効果的に活用し、「平和を学ぶ場」として機能させるための具体的な活動事例とその応用ヒントを探ります。
地域図書館が持つ平和教育の可能性
図書館には、様々なジャンルの本や資料が集まっています。歴史、文化、社会問題、異なる国の暮らし、絵本、記録資料など、平和や共生、多様性について考えるためのヒントが豊富に蓄積されています。また、誰もが比較的アクセスしやすく、静かで落ち着いた環境は、じっくりと考えたり、資料を調べたりするのに適しています。地域の情報が集まる場所でもあり、住民同士が偶然出会う機会も生まれます。
これらの特徴を活かすことで、図書館は単なる本の貸出施設にとどまらず、参加者が主体的に学び、対話し、互いの違いを知り、認め合うことのできる「平和を育む場」となり得ます。
事例紹介:〇〇市立図書館「平和と共生をひらく本棚」プロジェクト
ここでは、ある地域で実際に行われた、図書館を活用した平和教育の事例として、仮に「〇〇市立図書館『平和と共生をひらく本棚』プロジェクト」という取り組みを紹介します。
目的
- 図書館の蔵書を通じて、平和、人権、多様性、異文化理解といったテーマに触れる機会を地域住民に提供する。
- 本をきっかけとした対話や交流を生み出し、共生意識を育む。
- 図書館を、地域における平和学習の身近な拠点として位置づける。
対象者
小学生、中高生、成人、高齢者、外国籍住民など、幅広い地域住民。
具体的な手順と内容
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テーマに沿った選書と特設コーナーの設置:
- 平和、戦争、人権、環境問題、異なる文化、多様な暮らし、共生、ノンバイオレンスなどをテーマにした本を、絵本から専門書まで幅広く選定しました。地元の歴史に関する資料や、過去の災害に関する記録なども含めました。
- 多言語で書かれた本や、外国の文化を紹介する本も集めました。
- 選定した本を図書館内の見やすい場所に集め、「平和と共生をひらく本棚」として特設コーナーを設置しました。司書やボランティアが作成した本の紹介POPを添えました。
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関連ワークショップの開催:
- 読み聞かせ&対話会: 平和や多様性をテーマにした絵本の読み聞かせを行い、その後、絵本の感想やテーマについて参加者同士で自由に話し合う時間を設けました。小さなグループに分かれて対話する工夫をしました。
- 「私の平和な時間」ブック紹介: 参加者にお気に入りの本(ジャンルは問わない)を持ち寄ってもらい、「この本を読んでいる時が私の平和な時間です」「この本の登場人物の生き方から平和について考えました」など、本と平和を結びつけて紹介してもらいました。多様な価値観や平和のとらえ方に触れる機会となりました。
- 「未来へのメッセージ」ミニワークショップ: 戦争や災害に関する記録資料などを読んだ後、感じたことや未来への希望を短い言葉やイラストでカードに書き、メッセージツリーに飾る活動を行いました。
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図書館司書・ボランティアとの連携:
- プロジェクトの趣旨を共有し、選書やワークショップ運営に協力してもらうための研修会を実施しました。平和教育の専門家や、NPOのスタッフが講師を務めました。
- 地域住民からボランティアを募り、特設コーナーの管理やワークショップのサポートをお願いしました。
使用したツールや資料
図書館の蔵書(絵本、児童書、一般書、ノンフィクション、歴史資料、多言語資料など)、本の紹介POP、ワークショップ用の簡単なワークシート、付箋、模造紙、ペン、メッセージカード、飾り付け用の材料(折り紙、リボンなど)。
参加者の反応と得られた成果
- 「今まで手に取らなかったジャンルの本を読むきっかけになった」「図書館にこんな本があることを知らなかった」といった声が多く聞かれました。
- 読み聞かせ後の対話会では、子どもから高齢者まで、多様な世代がそれぞれの視点から意見を述べ合い、新たな気づきがあったという感想がありました。
- 外国籍住民が母国の文化を紹介する本を持参し、他の参加者との交流が生まれた事例もありました。
- 図書館が、本を借りるだけでなく、学び、考え、人と交流する場として認識されるようになりました。
直面した課題とそれを乗り越えるための工夫点
- 課題1:広報の難しさ。 図書館の利用者に活動が届きにくい、特定の層に情報が偏るといった課題がありました。
- 工夫1: 図書館内でのポスター掲示だけでなく、地域の回覧板、学校へのチラシ配布、地域のNPOや自治体広報誌との連携、SNSでの発信など、複数のチャネルを活用しました。
- 課題2:多様な参加者層へのアプローチ。 高齢者には紙媒体の情報、若い世代にはSNS、外国籍住民には多言語での案内が必要でした。
- 工夫2: 案内表示やチラシの一部を多言語化したり、外国人住民が多く利用する場所に情報を置いたりしました。また、地域の民生委員や外国人支援団体に協力を依頼しました。
- 課題3:図書館司書の専門知識。 平和教育や多様性に関する専門的な知識や、ワークショップ運営の経験がない司書もいました。
- 工夫3: プロジェクト開始前に外部講師による研修を実施し、基本的な知識と運営のポイントを共有しました。また、NPO職員や経験豊富なボランティアが運営をサポートする体制を作りました。
- 課題4:予算の制約。 大規模なイベントや高価な資材の使用は困難でした。
- 工夫4: 図書館という既存の公共空間を活用したため場所代はかかりませんでした。資材は図書館の備品や低コストで手に入るもの(模造紙、付箋など)を中心に利用しました。本の選定も既存の蔵書から行い、新規購入を最小限に抑えました。ボランティアの協力を得ることで人件費も抑制できました。
読者が自身の活動に応用するためのヒント
この事例から、地域活動や平和教育に携わる皆さんが図書館を活用する上での応用可能なヒントをいくつかご紹介します。
- 既存の資料を最大限に活用する: 高価な教材を準備しなくても、図書館には平和、多様性、共生に関する豊富な情報源があります。テーマを決めて関連資料を集めることから始められます。特に、地域の歴史や文化に関する資料、昔の暮らしを紹介する本は、身近な視点から平和を考える良いきっかけになります。
- 「本」を対話のきっかけにする: 読書会だけでなく、「心に残った一節を共有する」「本を読んで感じた疑問を話し合う」「本の内容と自分たちの地域を比較する」など、本を媒介とした多様な対話プログラムが考えられます。絵本は世代を超えて共感しやすいツールです。
- 図書館の空間を有効活用する: 特設コーナーの設置、壁面を使った情報発信、小さな会議室でのワークショップ開催など、図書館の様々なスペースを工夫して利用しましょう。他の利用者の迷惑にならないよう配慮は必要ですが、公共空間ならではのオープンな雰囲気は、偶然の出会いや参加を促す可能性があります。
- 多様な人々がアクセスしやすい工夫: 漢字にふりがなを振る、簡単な言葉で説明する、多言語での案内を併記するといった配慮は、様々な背景を持つ参加者が安心して参加するために重要です。読み聞かせに手話通訳を付ける、車椅子でのアクセスを確認するなど、バリアフリーへの配慮も検討します。
- 地域内の連携を深める: 図書館司書、学校の先生、地域のNPO、自治会の役員、外国籍住民が集まる団体など、様々な関係者と連携することで、活動の幅が広がり、より多くの人に情報を届けることができます。それぞれの専門性やネットワークを活かすことができます。
- 低コストで継続可能なアイデア: 大規模なイベントを企画するのではなく、月に一度の小さな読書会や、特定のテーマに関する資料の展示と簡単な解説会など、無理のない規模で継続的に実施することが重要です。手作りのPOPやワークシートを活用するなど、創造性を活かしてコストを抑えましょう。
- 参加者自身が企画に関わる: 参加者に「次に読みたい本」「次に話し合いたいテーマ」「どんなイベントがあれば面白いか」などを提案してもらう機会を設けることで、参加者の主体性を引き出し、活動のマンネリ化を防ぐことができます。
まとめ
地域図書館は、資料の宝庫であり、多様な人々が集まる身近な公共空間です。これらの特性を活かすことで、特別な設備や大きな予算がなくても、平和や共生について学び、対話する場を創り出すことが可能です。
今回ご紹介した事例やヒントが、皆さんの地域での平和教育活動において、図書館という新たな可能性を探る一助となれば幸いです。図書館司書の方々と連携し、地域住民と共に、誰もが安心して立ち寄り、学び、つながることのできる「平和を学ぶ場」を、身近な場所から創り上げていきましょう。