平和を学ぶ、平和を創る

デジタルストーリーテリングによる平和教育:参加型で物語を創る実践事例と応用へのヒント

Tags: デジタルストーリーテリング, 平和教育, ワークショップ事例, 地域活動, 多世代交流

デジタルストーリーテリングとは:個人の語りが平和教育にもたらす力

デジタルストーリーテリングは、写真や短い動画、音声、音楽などを組み合わせて作る、数分間の個人の語りです。語り手が自身の経験や思いを表現する手法であり、近年、教育や社会活動の分野で注目されています。

平和教育において、このデジタルストーリーテリングは非常に有効なツールとなり得ます。なぜなら、平和とは単なる紛争がない状態ではなく、多様な人々がお互いを理解し、尊重し合いながら共生していくプロセスだからです。デジタルストーリーテリングを通じて、参加者は自身の内にある平和に関する思いや、異なる文化、世代、背景を持つ人々との関わりの中で感じたことを物語として紡ぎ出すことができます。そして、その物語を共有し、耳を傾け合うことで、深い相互理解と共感を育むことができるのです。

この記事では、デジタルストーリーテリングを平和教育に活用した具体的な実践事例を取り上げ、そのプロセスや成果、そして読者の皆様がご自身の活動に応用するための具体的なヒントを探ります。

実践事例:地域の多様な声を紡ぐデジタルストーリーテリングワークショップ

ある地域で行われたデジタルストーリーテリングワークショップは、多文化・多世代が共生する地域社会において、互いの理解を深めることを目的として実施されました。

活動の目的と対象者

このワークショップの主な目的は、参加者が自身の平和に関する経験や、地域の中での他者との関わりについて語る機会を持ち、それをデジタルストーリーとして表現・共有することです。これにより、地域住民がお互いの多様な視点や価値観に触れ、共生への意識を高めることを目指しました。対象者は、年齢や国籍を問わず、地域に暮らす人々でした。

具体的な手順と使用ツール

ワークショップは数回のセッションに分けて行われました。

  1. 導入セッション: デジタルストーリーテリングの概念紹介、事例鑑賞、自己紹介と簡単なウォーミングアップ(自分の好きなものについて1分間語るなど)。
  2. ストーリーのアイデア出し: 「私にとっての平和な瞬間」「私が〇〇さんから学んだこと」「地域で大切にしたいこと」など、平和や地域に関連するテーマについて、参加者が自身の経験を振り返り、語りたいことのアイデアを出し合いました。ブレーンストーミングやペアワークを取り入れました。
  3. ストーリー構成: 選んだアイデアに基づき、物語の骨子(始まり、展開、終わり)を作成しました。写真や短い動画、音声など、どのような素材を使うかについても検討しました。簡易的なストーリーボードや構成シートを使用しました。
  4. 素材収集と語りの練習: 参加者が自身のスマートフォン等で、物語に関連する写真や動画を撮影したり、古い写真を探したりしました。物語を声に出して語る練習を行い、スムーズな語りになるよう調整しました。
  5. 録音・録画と編集: 用意した素材と語りを組み合わせ、デジタルストーリーを制作しました。スマートフォンに標準搭載されている録画・録音機能や、無料で利用できるスマートフォン向け動画編集アプリ(例: iMovie, CapCutなど)を主に利用しました。操作に不慣れな参加者には個別サポートを提供しました。
  6. 共有と対話: 完成したデジタルストーリーを参加者同士で鑑賞し、一人ひとりの物語に対して感じたことや考えたことを共有する対話の時間を持ちました。安全な場で安心して語り合える雰囲気作りを心がけました。

参加者の反応と得られた成果

参加者からは、「普段話すことのない地域の方の意外な一面を知ることができた」「自分の経験を語ることで、改めて大切にしたいことに気づいた」「デジタルツールを使うのは初めてだったが、サポートのおかげで楽しかった」といった肯定的な声が多く聞かれました。

成果としては、参加者間での新たな交流が生まれたこと、地域の多様な経験や歴史が可視化されたこと、そして互いの物語に耳を傾けることで共感やつながりが深まったことが挙げられます。特に、デジタルツールを介することで、口頭での語りだけでは表現しきれない感情や雰囲気を伝えることができたという意見もありました。

直面した課題と工夫点

読者が自身の活動に応用するためのヒント

この事例から、皆様の地域や団体での平和教育活動に応用できるいくつかのヒントを抽出できます。

1. 多様な参加者への配慮とサポート体制

デジタルストーリーテリングは、デジタルスキルの有無に関わらず誰もが参加できる可能性を秘めていますが、特に多様な年代や背景を持つ人々が安心して参加できるよう、事前の丁寧な説明と個別のサポート体制は不可欠です。 - ヒント: 参加者のデジタルスキルレベルを事前に把握するアンケートを実施する。少人数のグループに分け、デジタルツールに慣れたサポーター役(スタッフやボランティア、あるいは他の参加者)を配置する。文字情報だけでなく、口頭での説明やデモンストレーションを重視する。

2. 少ない予算で実施する工夫

高価な機材や専門的なソフトウェアは必須ではありません。多くの参加者が日常的に使用しているスマートフォンや、無料で利用できるアプリを活用することで、低コストでの実施が可能です。 - ヒント: 参加者自身のスマートフォンやタブレットの利用を基本とする。無料または安価で操作しやすい動画編集アプリを推奨・紹介する。ワークショップ会場として、地域の公民館や図書館など、使用料が抑えられる公共スペースを活用する。

3. 活動を活性化させるアイデア:異文化・多世代交流の視点

物語のテーマ設定を工夫することで、異文化や多世代間の交流を促進できます。共通のテーマであっても、異なる背景を持つ人々からは全く違う視点や経験が語られ、それが新たな発見や理解につながります。 - ヒント: 「私の街の好きな場所とその理由」「困難を乗り越えた経験」「未来への願い」など、参加者全員が自身の経験に引きつけて語れるような、普遍的でありながら個人の視点が出やすいテーマを設定する。異文化背景を持つ参加者には、母語での語りや字幕追加のサポートを検討する。多世代混合のグループを作り、お互いの物語作りのプロセスをサポートし合う機会を作る。完成したストーリーの発表会を地域交流イベントとして開催し、より多くの人々に多様な物語を届ける。

まとめ

デジタルストーリーテリングは、個々の経験や思いを「物語」という形で表現し、他者と共有することを可能にする強力な手法です。これは、多様な声が存在する地域社会において、相互理解と共感を育み、平和な共生を促進するための有効な平和教育アプローチとなり得ます。

ご紹介した実践事例とその応用ヒントが、皆様の平和教育活動において、多様な参加者と共に創造的な学びの場を創り出し、地域の絆を深める一助となれば幸いです。物語の力は、私たちが想像する以上に、人々の心をつなぎ、平和を創る力を持っています。