ゲームを通じた平和学習:ボードゲーム・カードゲーム活用事例とワークショップ運営のヒント
ゲームは、参加者が楽しみながら学び、互いに交流を深めるための有効な手法の一つです。特にボードゲームやカードゲームは、比較的手軽に導入でき、多様な背景を持つ人々が共に時間と空間を共有する機会を生み出します。これらのゲームを平和学習の文脈で活用することは、参加型の学びを促進し、対話や共生意識の醸成に繋がる可能性を秘めています。本記事では、ゲームを通じた平和学習の具体的な事例と、そのワークショップ運営におけるヒントをご紹介します。
ゲームを用いた平和学習の可能性
ゲームは、現実の複雑な状況をシンプル化し、参加者が役割を担ったり、特定のルールの中で意思決定を行ったりすることを促します。これにより、普段意識しない視点に気づいたり、他者の立場を想像したりする体験が生まれます。競争だけでなく、協力やコミュニケーションが重要な要素となるゲームを選ぶことで、参加者間の相互理解や共生の関係性を自然に育むことができます。
特にボードゲームやカードゲームは、参加者が物理的に同じテーブルを囲み、顔を見合わせながら進めることができるため、対面での交流を重視するワークショップに適しています。また、既存のゲームを活用すれば準備にかかる時間やコストを抑えることも可能です。
具体的な実践事例:多様な地域住民による対話促進ワークショップ
ここでは、地域のNPOが実施した、ボードゲームを活用した多様な地域住民向け対話促進ワークショップの事例をご紹介します。
活動の目的と対象者
このワークショップの目的は、地域に暮らす様々な年齢、職業、国籍、文化背景を持つ人々が、ゲームという共通の体験を通じて気軽に交流し、互いの違いや共通点に気づき、地域における共生について考えるきっかけを作ることにありました。対象者は、高校生から高齢者、日本に長く住む外国人住民、最近移住してきた人々など、地域住民全般でした。
具体的な手順
- 導入(アイスブレイク): 簡単な自己紹介と、今日のワークショップの流れを説明します。ゲームに慣れていない参加者もいるため、「今日は勝ち負けよりも、ゲームを通じて話をすることを楽しんでみましょう」といったメッセージを伝えます。
- ゲームの選定と説明: 参加者の構成や目的に合わせ、複数の種類のボードゲームを用意しました。例えば、互いの価値観や考え方を共有するカードゲーム、協力して共通の目標を達成する協力型ボードゲームなどです。各ゲームについて、目的と簡単なルールを分かりやすく説明します。初めての参加者向けには、デモンストレーションプレイを見せる時間を設けるなどの工夫をしました。
- グループ分けとゲームプレイ: 参加者を少人数のグループに分け、それぞれのテーブルでゲームをプレイします。グループ分けは、意図的に多様な背景の人が混ざるように調整しました。ファシリテーターは各テーブルを回り、ルールのサポートや、ゲーム中の会話を促す声かけを行います。
- ゲーム後の振り返りと対話: ゲームプレイ終了後、各グループや全体で振り返りの時間を設けます。「ゲームを通じてどんなことを感じましたか?」「チームで協力する中で気づいたことは?」「ゲームに出てきたテーマについて、自分の考えを話してみましょう」といった問いかけを用意し、ゲーム体験から学びや気づきに繋がるような対話を深めました。
- まとめ: 参加者全体で本日の感想や学びを共有し、今後の地域での交流や共生に向けたメッセージを伝えてワークショップを締めくくりました。
使用したツールや資料
- 多様なテーマや形式のボードゲーム、カードゲーム(市販のものを購入またはレンタル、自作のカードゲームなど)
- ゲームの説明書(必要に応じて簡易版や多言語版を作成)
- 振り返り用のワークシートや付箋、ペン
- 飲み物や簡単な軽食(リラックスした雰囲気作りのため)
参加者の反応と得られた成果
参加者からは、「ゲームを通じて初めて話すことができた人がたくさんいた」「お互いの意外な一面を知ることができた」「ゲームに集中しているうちに、年齢や国籍の壁を感じにくくなった」「普段言いにくいことも、ゲームのテーマだと話しやすかった」といった肯定的な声が多く聞かれました。ゲームの楽しさが、異なる背景を持つ人々が出会うハードルを下げ、自然な形での交流と対話を生み出すことに繋がったと考えられます。
直面した課題と乗り越えるための工夫点
- 課題1:ゲーム慣れしていない参加者への対応
- 工夫点:ルール説明は口頭だけでなく、図や具体例を交え、デモンストレーションを行うことで理解を助けました。また、各テーブルにゲームの経験があるスタッフやリピーターを配置し、サポート体制を整えました。
- 課題2:競争要素が強いゲームでの雰囲気作り
- 工夫点:競争よりも協力や対話に焦点を当てるゲームを多く選定しました。もし競争ゲームを使用する場合は、「勝ち負けではなく、ゲームのプロセスやそこでのコミュニケーションを楽しみましょう」というメッセージを事前に強く伝えました。
- 課題3:ゲーム後の対話の深め方
- 工夫点:振り返り用の問いかけを事前に複数パターン用意しておき、グループの雰囲気やゲームの内容に合わせて使い分けました。抽象的な感想だけでなく、「ゲーム中の特定の場面でどう感じたか」など、具体的な体験に紐づく問いを投げかけることで、対話が深まりやすくなりました。
読者が自身の活動に応用するためのヒント
この事例から、皆さんの活動に応用できるいくつかのヒントを抽出します。
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多様な参加者への配慮:
- ゲーム選定: 複雑すぎないルールで、協力やコミュニケーション要素が強いゲームを選ぶことが、多様な参加者が等しく楽しめる鍵となります。視覚的な要素が多いゲームや、言葉の使用が限定的なゲームは、言語の壁がある参加者にも取り組みやすいでしょう。
- ルールの説明: シンプルで分かりやすい言葉を選び、デモンストレーションや図解を積極的に活用します。必要であれば、多言語での説明資料を用意したり、通訳を配置したりすることも検討します。
- グループ編成: 年齢、背景、ゲーム経験などが偏らないよう、意図的に多様なメンバー構成になるように調整します。
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少ない予算で実施する工夫:
- 既存ゲームの活用: 自治体の施設や図書館でボードゲームの貸し出しを行っている場合があります。そうした公的サービスを活用することで、ゲーム購入費用を抑えることができます。
- 簡易ゲームの手作り: 用紙やペン、身近な素材を使って、簡単なカードゲームや問いかけシートを作成することができます。平和や共生といったテーマに沿ったオリジナルのゲームは、参加者の主体的な学びを促す可能性もあります。インターネット上には、無料で利用できるゲームテンプレートやアイデアも多数公開されています。
- 中古ゲームの活用: フリマアプリやリサイクルショップなどで、状態の良い中古のボードゲームを探すことも一つの方法です。
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活動を活性化させるアイデア(異文化・多世代交流の視点を含む):
- テーマ設定: ゲームのテーマを異文化理解や地域の課題など、平和学習の具体的な側面に紐づけることで、より学びを深めることができます。例えば、異なる文化の挨拶や習慣を知るカードゲーム、地域の問題解決を目指す協力ゲームなどです。
- ゲーム後の発展: ゲームで出た気づきや対話を、その後の継続的な活動(地域の多文化共生イベント、世代間交流プロジェクトなど)に繋げる企画を立てることで、単発のイベントに終わらせず、より深い関係性や学びの継続に繋げることができます。
- 参加者主体の要素: 参加者にゲームのルールを説明してもらう役割をお願いしたり、オリジナルのゲームアイデアを募集したりするなど、一部を参加者主体で進めることで、より積極的に関わる機会を提供できます。
まとめ
ボードゲームやカードゲームを用いた平和学習ワークショップは、楽しみながら多様な人々が交流し、相互理解や共生意識を育む有効な手段となり得ます。ゲームの選定、分かりやすいルールの説明、そして何よりゲーム体験を通じた丁寧な振り返りと対話の時間が、ワークショップの質を高める鍵となります。少ない予算でも工夫次第で実施可能であり、多様な参加者への配慮を取り入れることで、年齢や文化背景を超えた豊かな交流が生まれることでしょう。この記事でご紹介した事例やヒントが、皆さんの地域における平和教育活動の新たな一歩を後押しできれば幸いです。