平和を学ぶ、平和を創る

平和教育にデザイン思考を取り入れる:参加型ワークショップ事例と応用ヒント

Tags: 平和教育, デザイン思考, ワークショップ, 参加型学習, 地域活動, 多世代交流

平和教育の実践において、参加者の内発的な気づきや行動変容を促す創造的かつ参加型の学びの機会は重要です。特に地域社会での活動では、多様な背景を持つ人々が主体的に関わり、共に平和や共生について考え、具体的な行動に繋げることが求められます。このような活動において、デザイン思考のアプローチは有効な視点を提供します。

デザイン思考は、本来は製品やサービスの開発に用いられる手法ですが、人間のニーズへの共感から始まり、問題定義、アイデア創出、プロトタイプ作成、テストというプロセスを経て、創造的な解決策を生み出す枠組みです。このプロセスは、他者への深い理解、隠れた課題の発見、既成概念にとらわれない発想、そして試行錯誤による改善といった要素を含んでおり、まさに平和や共生を学ぶ上で必要となる姿勢やスキルと共通する部分が多くあります。

ここでは、デザイン思考のプロセスを応用し、地域の多世代が共に学び、新たな繋がりを生み出すことを目指した平和教育ワークショップの事例をご紹介します。

実践事例:地域をつなぐ「デザイン思考」ワークショップ

このワークショップは、地域における世代間のコミュニケーション不足や互いの関心の薄さといった課題に対し、参加者が主体的に関わり方や交流の機会をデザインすることを目指して企画されました。

ワークショップの具体的な手順

  1. 導入(約15分):デザイン思考とは何か、ワークショップの目的

    • 今日のワークショップの目的を共有。
    • デザイン思考の基本的な考え方(「共感」から始まり、試行錯誤を重ねる)を、身近な例えを用いて分かりやすく説明。答えをすぐに出すのではなく、みんなで一緒に考えることの楽しさを伝える。
  2. ステップ1:共感 (Empathize) - 互いの世界を知る(約60分)

    • 参加者を異世代・異文化(もしあれば)が混ざるようにグループ分け(5〜6名×5グループ)。
    • グループ内でペアを作り、互いに簡単なインタビューを実施。「最近嬉しかったこと」「地域の中で気になっていること」「子どもの頃の遊び」「今ハマっていること」など、プライベートな側面や地域への思いを聞き合う。インタビューシートの問いかけ例はあくまで補助。
    • インタビューで聞いたことをグループ内で共有。付箋に一人ひとりの「気づき」「発見」「印象に残った言葉」などを書き出し、模造紙に貼り出す。「へぇ!」「そうなんだ!」といった声を引き出すファシリテーションを意識。
  3. ステップ2:課題定義 (Define) - 本当の課題を見つける(約45分)

    • ステップ1で共有した内容を見返しながら、グループとして「地域でもっとこうなったらいいのに」「こういう点で困っている人がいるのかもしれない」といった、「課題」や「願い」の種を探す。
    • 見えてきた課題を具体的な問いの形に落とし込む。「どうすれば、子供たちがお年寄りに気軽に話しかけられるだろう?」「どうすれば、地域の人たちがもっと安心して暮らせるだろう?」など。最も関心のある問いをグループのテーマとして選ぶ。
  4. ステップ3:アイデア創出 (Ideate) - 解決策を考える(約45分)

    • ステップ2で設定した問いに対し、グループで自由にアイデアを出し合う(ブレインストーミング)。「こんなこと無理かな?」と思える突飛なアイデアも歓迎する雰囲気作り。付箋にアイデアを一つずつ書き出し、模造紙に貼り出す。
    • 他のグループのアイデアも見て回り、刺激を受ける時間を設ける。
  5. ステップ4:プロトタイプ作成 (Prototype) - アイデアを形にする(約45分)

    • 出たアイデアの中から、グループで「これだ!」と思うものを一つ選び、短時間で「かたち」にする。寸劇、絵、簡単な模型、ポスター、歌の歌詞、イベントの企画書風シートなど、何でも良い。完成度よりも「アイデアを表現する」ことを重視。手元にある低コストな材料を工夫して使う。
    • 進行役は各グループを回り、必要に応じてサポートや声かけを行う。
  6. ステップ5:テスト (Test) - 見せて、伝えて、フィードバックをもらう(約30分)

    • 各グループが作成したプロトタイプを発表。他のグループはそれを見て、良い点、面白いと思った点、「もっとこうしたら?」といった改善点などをフィードバックする。
    • 発表とフィードバックを通じて、アイデアをさらに深めたり、新たな気づきを得たりする。
  7. まとめ(約15分)

    • ワークショップ全体を振り返り、デザイン思考のプロセスを通じて感じたこと、学んだこと、気づいたことなどを共有。
    • このワークショップで生まれたアイデアを今後どう活かせるか、簡単な行動計画を話し合うグループも。
    • 参加者への感謝を伝え、終了。

参加者の反応と成果、課題、工夫点

地域活動への応用ヒント

この事例から、デザイン思考のアプローチを地域の平和教育活動に応用するためのいくつかのヒントが見出せます。

まとめ

デザイン思考のアプローチは、「共感」から始まり「試行錯誤」を重ねるそのプロセス自体が、多様な他者への理解を深め、身近な課題を主体的に捉え、解決策を創造的に生み出すという、平和教育において非常に示唆に富むものです。特に、多様な背景を持つ人々が集まる地域での活動において、参加者一人ひとりがそれぞれの視点を持ち寄り、互いの違いを認め合いながら、共に考え、共に創り出す経験は、共生社会を築く上でかけがえのない学びとなります。

今回ご紹介したワークショップ事例のように、デザイン思考の基本的なステップを参考に、皆さんの活動の目的や対象者に合わせて内容を工夫することで、参加者の主体的な学びを引き出し、地域の平和創造に繋がる新たな可能性を開くことができるでしょう。身近な素材や場所を活用し、創造的なプロセスを通じて、ぜひ皆さんの地域で平和を学ぶ、平和を創る活動を実践してみてください。