平和を学ぶ、平和を創る

歌とリズムで異文化・多世代交流を育む:音楽を通じた平和教育ワークショップ事例とそのヒント

Tags: 平和教育, ワークショップ事例, 音楽, 異文化交流, 多世代交流

音楽や歌が持つ平和教育の可能性

音楽や歌は、言語や文化の壁を超えて人々の心を繋ぎ、共感や一体感を生み出す力を持っています。平和教育においても、この音楽が持つ力を活用することは、多様な背景を持つ人々が互いを理解し、共に生きる社会を築く上で有効なアプローチとなり得ます。特に、言葉だけでは伝えきれない感情やニュアンスを共有したり、異なる文化のリズムやメロディーに触れることは、参加者の異文化理解を深め、多世代間のコミュニケーションを促進する機会となります。

この記事では、地域社会で音楽を通じた平和教育として実施されたワークショップの実践事例を紹介し、その具体的な手順や成果、そして活動を企画・実施する上で応用可能なヒントを提示します。少ない予算でも多様な参加者と共に豊かな学びの場を創り出すための工夫についても触れていきます。

実践事例:地域の歌とリズムで繋がる交流ワークショップ

ここでは、ある地域のNPOが多文化共生と多世代交流を目的として実施した、音楽を通じた平和教育ワークショップの事例をご紹介します。

ワークショップの目的と対象者

具体的な手順と使用したツール

ワークショップは、約2時間のプログラムで実施されました。

  1. オープニングとアイスブレイク(15分):

    • 簡単な自己紹介と、今日のワークショップへの期待を共有しました。
    • 手拍子や足踏み、体の動きを使った簡単なリズム遊びで体をほぐし、場の雰囲気を和ませました。特定のリーダーを置かず、参加者同士でリズムを真似し合ったり、新しいリズムを提案したりする形で行い、自然な交流を促しました。
    • 工夫点: 音楽経験がなくても参加しやすいよう、言葉を使わない、体を使ったシンプルなアクティビティから開始しました。
  2. 「わたしのふるさとの歌」紹介タイム(40分):

    • 事前に希望を募った参加者に、自身の育った場所や故郷にまつわる大切な歌(童謡、民謡、流行歌など)を一つ選び、その歌にまつわるエピソードや思い出、歌詞の意味などを簡単に紹介してもらいました。歌の一部を歌ったり、音源を流したりしました。
    • 通訳が必要な場合は、多言語対応可能なスタッフやボランティアがサポートしました。
    • 工夫点: 強制ではなく希望者制とすることで、参加のハードルを下げました。単に歌を聞くだけでなく、歌の背景にある文化や個人の物語を共有することに重点を置きました。言語の壁がある場合も、歌声自体やリズム、紹介者の表情から伝わるものを大切にしました。
  3. みんなでリズムを創ろう(40分):

    • 参加者をいくつかの小グループに分けました。
    • 各グループに、身近にあるもの(ペットボトル、箱、新聞紙など)や、簡単な打楽器(カスタネット、鈴、タンバリンなど)を用意し、それらを使ってオリジナルのリズムパターンを創ってもらいました。
    • 「喜び」「悲しみ」「希望」など、抽象的なテーマから連想する音やリズムを表現する、といった課題設定も行いました。
    • 最後に、各グループが創ったリズムを発表し、他のグループがそれに合わせて手拍子や音を重ねていく、といったセッションを行いました。
    • 工夫点: 高価な楽器は使わず、日常生活にあるものや安価な楽器を活用することで、低コストでの実施を可能にしました。言葉でのコミュニケーションが少なくても、音やリズムを通じて互いのアイデアを共有し、協力して一つのものを作り上げるプロセスを重視しました。
  4. 平和・共生をテーマにした歌づくりと合唱(40分):

    • ワークショップ全体の感想や、「平和」「一緒に生きる」といったテーマから思い浮かんだ言葉やフレーズを、参加者全体で出し合いました。(模造紙に書き出すなど)
    • 出された言葉を元に、シンプルなメロディーに乗せやすい歌詞を数名でまとめました。既存の簡単なメロディー(日本の童謡や、共通認識のある簡単なメロディー)に当てはめる、またはその場で簡単なメロディーを創る、といった方法を取りました。
    • 完成した短い歌を、参加者全員で一緒に歌いました。
    • 工夫点: 専門的な音楽知識がなくても歌詞づくりや歌に参加できるよう、シンプルさを心がけました。全員で同じ歌を歌うことで、一体感や達成感を共有し、ワークショップのテーマを体感的に理解することを促しました。
  5. 振り返りと共有(10分):

    • ワークショップ全体の感想や、音楽を通じた交流で感じたことなどを、自由に語り合う時間を持ちました。

参加者の反応と得られた成果

直面した課題と乗り越えるための工夫

活動に応用するためのヒント

この事例から、地域や学校での平和教育活動に応用できるいくつかのヒントが得られます。

  1. 「完璧な演奏」より「共につくるプロセス」に焦点を当てる: 音楽的な完成度を追求するのではなく、参加者同士が協力し、試行錯誤しながら一緒に音や歌を創り上げていく過程そのものを大切にしましょう。ここに共感や相互理解の機会が生まれます。
  2. 身近な音や素材を活用する: 高価な楽器がなくても、手拍子、足踏み、声、身近にあるものを叩いたり振ったりすることで音楽は生まれます。ペットボトルに豆を入れたマラカスや、ゴムと空き箱で作るギターなど、身近な素材で簡単な楽器を自作するワークショップも、創造性と主体性を育み、低コストで実施可能です。
  3. 非言語コミュニケーションの可能性を最大限に引き出す: リズム、音色、歌声、体の動きといった非言語的な要素は、言語の壁を越えた深いレベルでのコミュニケーションを可能にします。様々な国のリズムパターンに触れる、感情を音で表現する、といったアクティビティを取り入れることで、多様な参加者が言語の制約なく自分を表現し、他者と繋がる機会を提供できます。
  4. 参加者の「声」や「物語」を音楽に乗せる: 参加者自身の体験や考え、感情を言葉やメロディーに乗せて表現する機会を設けることは、自己肯定感を高め、他者への共感を促します。「ふるさとの歌」紹介だけでなく、「平和とは?」といったテーマで自由に言葉を出し合い、それを簡単な歌にする、といった活動も有効です。
  5. 異文化理解を深めるテーマ設定: 異なる国の童謡、民謡、リズムなどを紹介し合うことで、参加者は自然に異文化に触れることができます。共通のテーマ(例: 平和、家族、自然)で、それぞれの文化における歌や音楽の役割について話し合うことも、相互理解を深めるきっかけとなります。
  6. 多世代交流を促す選曲やアクティビティ: 世代を超えて多くの人が知っている童謡や唱歌を一緒に歌う、昔の遊び歌を取り入れる、子どもたちが考えたリズムにお年寄りがメロディーをつける、といった多世代が共に楽しめる選曲やアクティビティを企画しましょう。互いの世代の音楽に触れることで、新たな発見や共感が生まれます。

まとめ

音楽や歌を通じた平和教育ワークショップは、特別な環境や高価なツールがなくても、多様な人々が共に学び、繋がりを深めるための有効な手法です。言語や文化、世代といった壁を越え、音やリズム、歌声を通じて互いの存在を認め合い、共感する経験は、地域社会に平和や共生意識を根付かせる上で重要な役割を果たします。

今回紹介した事例やヒントが、皆様の平和教育活動を企画・実施される際の参考となれば幸いです。参加者と共に、歌声とリズムに満ちた豊かな学びの場を創り出してください。