参加型ゲームで育む共生意識:多世代交流ワークショップ事例とそのヒント
はじめに
平和教育は、学校や地域社会において、多様な人々が互いを理解し、尊重し合いながら共に生きる社会を築くための重要な取り組みです。しかし、そのアプローチは多岐にわたり、参加者の関心を引きつけ、主体的な学びを促すためには様々な工夫が求められます。特に、多様な年代や背景を持つ人々が集まる地域での活動においては、参加しやすい雰囲気と、楽しみながら深い学びを得られる機会を提供することが重要となります。
ここでは、遊びやゲームといった手法を平和教育に取り入れた地域での実践事例を紹介し、その具体的なプロセスや、読者の皆様の活動に応用するためのヒントを探ります。ゲームは、参加者が自然に関わり合い、試行錯誤しながら学ぶことができる有効なツールとなり得ます。
事例紹介:「みんなで創る平和のまち」ゲームワークショップ
この事例は、ある地域のNPOが企画・実施した多世代参加型のワークショップです。
活動の目的
- 世代や背景の異なる参加者同士が協力し、コミュニケーションを図ること。
- 多様な意見や価値観が存在することを認識し、それらを尊重することの重要性を体感的に学ぶこと。
- 対話や合意形成のプロセスを通じて、より良い共同体を築くためのヒントを得ること。
対象者
地域の小学生とその保護者、地域の高齢者クラブのメンバーなど、幅広い年代の住民。合計約30名が参加しました。
具体的な手順
- 導入とアイスブレイク(30分)
- ワークショップ全体の目的と流れを説明しました。
- 簡単な協力型のジェスチャーゲームや、共通点探しのゲームを行い、参加者同士の緊張をほぐし、気軽に話せる雰囲気を作りました。
- メインゲーム「平和のまち建設ゲーム」(90分)
- 参加者を6グループ(各グループ5名程度、世代が偏らないように配慮)に分けました。
- 各グループは「まちづくりのチーム」となり、与えられた限られた資源(画用紙、ブロック、色鉛筆など)と、まちに住む様々な住民(役割カード:例「自然を守りたい人」「開発を進めたい人」「新しい文化を取り入れたい人」「伝統を大切にしたい人」など、異なる価値観を持つキャラクターを設定)の情報をもとに、協力して「平和なまち」を建設するという課題に取り組みました。
- ゲーム中には、資源の分配に関する課題や、住民間の意見の対立を解決するための「話し合いフェーズ」を設けました。参加者は役割カードの意見を参考にしながら、チーム内で議論し、どのようにまちを創るかを決めました。
- リフレクション・振り返り(60分)
- 各チームが作った「平和のまち」を発表しました。
- ゲーム中の経験(難しかったこと、面白かったこと、気づいたこと)を共有しました。特に、意見の対立にどう向き合ったか、異なる世代や価値観の人とどう協力したか、といった点に焦点を当てて対話を促しました。
- ゲームで得た学びが、自分たちの住む現実の地域社会とどのようにつながるかを話し合いました。
使用したツールや資料
画用紙、段ボール、積み木やブロック、色鉛筆、ハサミ、ノリなどの基本的な工作材料。役割カード(まちの住民設定)、資源カード。ホワイトボードまたは大きな紙(議論の可視化用)。
参加者の反応
- ゲームが始まる前は少し静かだった参加者も、チームでの作業が始まると自然と会話が生まれ、積極的にアイデアを出し合う様子が見られました。
- 特に小学生と高齢者がペアになり、協力して作業を進める場面が多く見られ、世代を超えた自然な交流が生まれました。
- ゲーム中の話し合いフェーズでは、最初は戸惑いも見られましたが、ファシリテーターのサポートもあり、お互いの意見を聞きながら慎重に合意形成を図ろうとする姿勢が見られました。
- 振り返りの時間では、「人の意見を聞くことの難しさと大切さを学んだ」「自分とは違う考え方があることを知った」「みんなで協力して一つのものを作るのが楽しかった」といった声が多く聞かれました。
得られた成果
- 参加者間に、世代や背景を超えた相互理解と親近感が生まれました。
- 多様な意見を尊重し、対話を通じて合意を形成するプロセスを体感的に学ぶ機会となりました。
- 遊びを通して、平和や共生といった抽象的なテーマを身近なものとして捉え、考えるきっかけを提供できました。
- 地域における多世代交流の新たな機会を創出しました。
直面した課題とそれを乗り越えるための工夫点
- 時間配分: 特にゲーム中の話し合いや振り返りの時間が予定より長くなる傾向がありました。→事前に各フェーズの目安時間を明確に伝え、必要に応じてファシリテーターが介入し、議論を整理・促進するよう工夫しました。
- ルールの理解: ゲームのルールが複雑すぎると、特に子どもや高齢者には理解が難しい場合があります。→ルール説明はシンプルかつ具体的に行い、簡単なデモンストレーションや練習ゲームを導入しました。視覚的なツール(図解など)も活用しました。
- 参加の偏り: 一部の参加者が積極的に発言する一方で、静かにしている参加者もいました。→チーム内に進行をサポートするメンバー(ミニファシリテーター)を配置したり、付箋を使った意見出し(全員が一度書く)など、多様な方法で参加を促しました。休憩時間を設けることで、非公式な交流の中から意見が生まれることもありました。
読者が自身の活動に応用するための具体的なヒント
この事例から、ゲームや遊びを平和教育に取り入れる際に応用可能なヒントをいくつかご紹介します。
1. 多様な参加者への配慮
- ルールの単純化と柔軟性: 複雑なルールは避け、誰でも直感的に理解しやすいゲームを選定または設計します。必要に応じてルールの調整や、参加者のレベルに合わせた難易度設定を検討します。
- 役割分担の工夫: 身体的な制約やコミュニケーションスタイルに合わせて、ゲーム内での役割を多様に設定します。観察する人、記録する人、アイデアを出す人など、様々な貢献の仕方があるようにします。
- 安全で安心できる場づくり: 競争よりも協力を重視するゲームを選び、失敗を恐れずに挑戦できる雰囲気を作ります。否定的な言葉を使わず、互いを励まし合うよう促します。
- 世代間の橋渡し: アイスブレイクやチーム分けの際に、意識的に世代を超えた交流が生まれるよう配慮します。共通の話題を見つけやすいテーマや、互いの知識や経験を活かせる役割を設定します。
2. 少ない予算で実施する工夫
- 身近な素材の活用: ゲームツールや材料には、段ボール、紙、廃材、自然物(木の枝、葉っぱなど)といった低コストで手に入るものを積極的に使用します。地域の図書館や公民館にある備品(模造紙、マーカーなど)も活用できます。
- 既存のゲームを応用: 市販されているゲームのルールやアイデアを、平和教育の目的に合わせてアレンジします。例えば、人生ゲームやモノポリーのようなボードゲームの要素を取り入れ、資源分配や共同意思決定のテーマで活用できます。
- 屋外や公共スペースの活用: 広場、公園、地域の集会所など、利用料がかからない、あるいは低コストで利用できる場所を会場とします。
3. 活動を活性化させるアイデア(異文化・多世代交流の視点を含む)
- テーマに地域性を盛り込む: 地域の歴史(良い点も課題も含む)、文化、多文化背景、現在の課題などをゲームのテーマやシナリオに組み込みます。これにより、参加者は自分たちの地域を舞台にした活動として、より主体的に関われます。
- 異なる文化の遊びを取り入れる: 世界各地の伝統的な遊びやゲームを紹介し、体験する機会を設けます。遊び方を通して文化の違いや共通点を学ぶことができます。
- アウトプットの共有: ゲームで作成した成果物(例えば「平和のまち」の模型やアイデア)を地域で展示したり、発表会を開いたりすることで、活動の輪を広げ、他の住民の関心を引くことができます。
- 振り返り(リフレクション)の質の向上: ゲーム体験を深掘りし、学びを定着させるためには、丁寧な振り返りが不可欠です。「何が起こったか」「どう感じたか」「そこから何を学んだか」「それをどう活かせるか」といった問いかけを使い分け、参加者自身の言葉で語ることを促します。異文化や多世代の視点を取り入れた質問(例:「このゲームで、自分とは違う世代の人のどんな考えに触れましたか?」「もし違う文化の人がこの状況にいたらどうすると思いますか?」)を加えることで、学びを深めることができます。
まとめ
ゲームや遊びは、参加者が楽しみながら、そして体感的に平和や共生について学ぶことができる非常に有効な手段です。今回紹介した事例のように、具体的なシナリオに基づいたシミュレーションゲームは、多様な意見の存在、対話の重要性、協力による課題解決といった、平和な社会を築く上で不可欠な要素を参加者が自ら体験し、考える機会を提供します。
地域での平和教育活動において、ゲームや遊びの手法を取り入れることは、多世代・多文化の参加者にとってアクセスしやすく、主体的な学びを促す強力なアプローチとなり得ます。少ない予算でも、身近な素材や既存のアイデアを応用し、参加者へのきめ細やかな配慮を行うことで、質の高い学びの場を創出することが可能です。
この記事で紹介した事例やヒントが、皆様の今後の平和教育活動の企画・実施において、新たな視点や具体的な工夫の参考となれば幸いです。遊びの持つ力を借りて、地域に根差した平和を創る活動をさらに豊かなものにしていきましょう。