地域のクラフトで繋がる多世代・異文化交流:平和教育ワークショップ事例と応用へのヒント
地域社会における平和教育は、多様な人々が互いを理解し、共生する意識を育むための重要な営みです。多世代・異文化交流を促す実践は数多くありますが、本稿では、地域の伝統的な手仕事やクラフトを媒介としたワークショップ事例を取り上げ、その具体的な手法や企画・運営のヒントを提供いたします。手仕事には、言葉の壁を超えて共有できる要素や、共に何かを「創り出す」協働のプロセスが含まれており、多様な背景を持つ人々が自然に交流し、共感し合う場を創出する可能性を秘めています。
地域のクラフトを通じた多世代・異文化交流ワークショップの実践事例
ある地域のNPOでは、地域に古くから伝わる「裂き織り(さきおり)」の技術を活かした多世代・異文化交流ワークショップを企画・実施しました。この地域には、戦前から続く織物文化があり、高齢者の中に裂き織りの技術を持つ方が多くいらっしゃいました。一方で、近年は海外からの移住者や都市部からの転入者も増加しており、多様な文化が共存する地域となっています。
活動の目的
このワークショップの主な目的は以下の通りでした。
- 地域の伝統技術(裂き織り)の継承と普及
- 地域住民(特に高齢者と若年層、日本人と外国人)間の交流促進
- 手仕事を通じた協働作業による共生意識の醸成
- 参加者それぞれの文化や経験を共有する機会の提供
- 身近な素材を活用した創造活動による達成感の共有
対象者と参加者の構成
対象者は、地域の高齢者、子育て世代の親とその子供、地域に住む外国人、地域の学校の生徒や教職員など、多様な人々でした。実際には、地域の女性グループ、近隣の日本語学校の生徒、地元の小学校の児童と保護者、そして地域活動に関心のある個人などが参加されました。参加者の年齢層は小学生から80代までと幅広く、出身国も日本、中国、韓国、ベトナム、ブラジルなど様々でした。
具体的な手順と使用したツール
ワークショップは全3回のコースとして設計されました。
- 第1回:裂き織りの基礎を学ぶ・素材を知る
- 導入:参加者同士の簡単な自己紹介(名前、好きなものなど、日本語が難しい場合はジェスチャーや絵も活用)。ワークショップの目的説明。
- 裂き織りの歴史と地域との繋がりについて、地域の技術保持者(講師役)がお話されました。
- 裂き織りに使う布の準備(古着や端切れを裂く作業)。参加者が持ち寄った布や、寄付された布を使用しました。様々な色や柄の布が混ざることで、視覚的な多様性も生まれました。
- 簡単な織り機(卓上小型機や段ボールを使った手作り機)の使い方説明と練習。
- 各自が小さなコースターなどを織る体験。
- 第2回:交流しながら織り進める
- 前回の復習と、少し複雑な模様や色の組み合わせに挑戦。
- ペアやグループを作り、互いに教え合ったり、使いたい布を交換したりしながら作業を進めました。異文化背景を持つ参加者は、母国の織物や手仕事について紹介し合いました。
- 休憩時間には、参加者が持ち寄ったお菓子(各国のものを含む)を囲んで交流する時間も設けました。
- 第3回:作品を完成させる・成果発表と交流会
- 各自の作品を完成させる。
- 完成した作品を並べて、参加者一人ひとりが自分の作品について簡単に紹介しました(こだわった点、難しかった点、楽しかったことなど)。日本語が難しい場合は、他の参加者やスタッフがサポートしました。
- 作品を並べたミニ展示会を実施。互いの作品を鑑賞し、感想を伝え合いました。
- 参加者全員で輪になり、ワークショップ全体を通しての感想や、今回の交流で感じたことなどを共有しました。
使用したツールは、主に簡易織り機、布(古着、端切れなど)、ハサミ、定規など、比較的安価で手に入りやすいものでした。広報には、地域の回覧板、公民館の掲示板、NPOのウェブサイトやSNS、地域の日本語教室や国際交流協会へのチラシ配布などを活用しました。
参加者の反応と得られた成果
参加者からは、「高齢の方から直接技術を学べて感動した」「日本語が片言でも、手を見ればやり方が分かった」「自分の国の布の文化と日本の裂き織りの違いが面白かった」「子供が集中して作業に取り組んでいて驚いた」「普段話す機会のない世代や国の人と交流できて楽しかった」「使わなくなった服が素敵な作品に生まれ変わるのが嬉しかった」といった肯定的な感想が多く聞かれました。
成果としては、単に裂き織りの技術が伝承されただけでなく、参加者間に自然な会話や助け合いが生まれ、世代や文化の壁を超えた交流が促進されました。特に、日本語に自信がない外国人参加者も、手仕事という非言語的なコミュニケーションを通じて参加しやすかった点が特筆されます。地域のコミュニティにおける多様性への理解が深まり、参加者同士の新たなネットワークが生まれたことも重要な成果でした。
直面した課題と工夫点
課題1:多様な参加者への対応 言語レベル、年齢、体力、手先の器用さなどに大きな差がありました。 * 工夫: 多言語での簡単な手順書やイラストを用意しました。技術保持者とサポートスタッフ(通訳ボランティアを含む)を複数配置し、個別の進捗状況に合わせて丁寧にサポートしました。子供や初心者向けに、より簡単な工程や作品を用意しました。休憩時間をこまめに設け、無理なく参加できるよう配慮しました。
課題2:材料費と低コスト運営 参加人数が多いと材料となる布の確保が課題となります。また、運営全体のコストも抑える必要がありました。 * 工夫: 参加者に不要になった古着や布を持ち寄ってもらうことを呼びかけました。地域のお店や企業に端切れの寄付をお願いしました。簡易織り機は手作りできる方法を紹介したり、既存のものをレンタルしたりすることで初期費用を抑えました。会場は地域の公民館を借用し、ボランティアスタッフの協力を得ることで人件費を削減しました。一部助成金も活用しました。
課題3:活動のマンネリ化防止と継続性 単発のイベントで終わらせず、継続的な交流や活動に繋げたいという課題がありました。 * 工夫: コース形式にすることで、複数回参加する中で参加者間の関係性が深まるように設計しました。ワークショップ終了後も、地域のイベントで共同で作品を展示したり、新たな手仕事サークルを立ち上げたりするなどの可能性について参加者と情報交換を行いました。参加者同士が連絡先を交換できる時間を設けました。
読者の活動に応用するためのヒント
この事例から、読者の皆様の活動に応用可能なヒントをいくつか提示いたします。
- 地域資源の活用: 地域の伝統技術、自然素材、歴史、祭りなど、その地域ならではの資源を平和教育の題材として活用できないか検討してください。既に存在する技術や文化は、地域住民の参加意欲を高める強力なフックとなります。
- 「つくる」プロセスを重視: 絵を描く、ものを作る、料理をする、歌う、演じるなど、非言語的な要素を含む「つくる」活動は、言語や文化の壁を越えた交流を促進しやすいです。完成品だけでなく、共に創り出すプロセスそのものに焦点を当て、参加者間の協働や助け合いを促す仕掛けを設けてください。
- 多様な参加者への配慮: ワークショップの内容や進め方を計画する際に、想定される参加者の多様な背景(年齢、文化、言語、身体能力、経験など)を考慮することが不可欠です。多言語サポート、簡単な言葉での説明、視覚資料の活用、ユニバーサルデザインの視点を取り入れるなどの工夫が有効です。
- 低コストで実施する工夫: 地域のリソース(公民館、学校、企業の会議室など)の活用、材料のリサイクル・寄付募集、ボランティアスタッフの育成・協力依頼、他の団体との連携による合同開催など、予算が限られていても実施できる方法は多くあります。
- 交流促進のためのデザイン: 参加者同士が自然に会話したり、協力したりする機会を意図的にデザインしてください。ペアワークやグループワーク、意見交換の時間を設ける、共通の目標(一つの大きな作品を共同で作り上げるなど)を設定する、食事やお茶を共にする時間を取り入れるなどが考えられます。
- 継続的な関わりを視野に: 単発のイベントに留めず、参加者がその後も交流を続けたり、活動に関わったりできるようなフォローアップの機会(交流会、SNSグループ、関連イベントの案内など)を用意することで、より持続的なコミュニティ形成や平和教育に繋がります。
まとめ
地域の伝統的な手仕事やクラフトを媒介とした平和教育ワークショップは、多様な人々が互いを理解し、共生意識を育むための実践的なアプローチの一つです。ものづくりの楽しさを共有しながら、言葉の壁を超えた交流や世代間の学び合いが生まれ、参加者は自身の文化や他者の文化に対する理解を深めることができます。
このような活動を企画・実施する際には、地域の資源を活かし、多様な参加者への細やかな配慮を行い、参加者同士の自然な交流を促すデザインを取り入れることが重要です。そして、低コストでの運営や継続的な関わりを視野に入れることで、活動の可能性はさらに広がります。本稿で紹介した事例やヒントが、皆様の地域での平和を学ぶ、平和を創る活動の一助となれば幸いです。