地域フィールドワークを通じた平和教育:身近な場所で多様性を学ぶ実践事例と応用へのヒント
身近な地域には、多様な歴史や文化、人々の営みが息づいています。これらの多様性に気づき、理解を深めることは、平和な社会を築く上で重要な一歩となります。座学だけでなく、実際に地域を歩き、五感を使って学ぶフィールドワークは、この気づきを促す有効な手法の一つです。
この記事では、地域フィールドワークを平和教育のプログラムに取り入れた実践事例を紹介し、その実施における具体的な手順や工夫、そして読者の皆さんの活動に応用するためのヒントを提供します。
実践事例:「まちの音・色・匂い発見ウォーク」
ある地域のNPOが実施した「まちの音・色・匂い発見ウォーク」と題した平和教育プログラムの事例です。このプログラムは、参加者が普段見過ごしている地域の多様な側面(歴史、自然、生活音、地域の香り、看板のデザインなど)に気づき、互いの感じ方や視点の違いを共有することで、多様性の理解と他者への尊重の気持ちを育むことを目的としていました。
活動の概要と具体的な手順
- 目的: 地域の多様性への気づきを深め、異なる視点を認め合う姿勢を育む。参加者同士の交流を促進する。
- 対象者: 地域住民(小学生親子、中高生、高齢者、外国にルーツを持つ住民など、多世代・多様な背景を持つ人々を想定)。
- 期間・頻度: 半日〜1日、単発での実施。
- 場所: 地域内の公園、商店街、住宅街、寺社仏閣などが混在するエリア。
- 具体的な手順:
- 導入・オリエンテーション: プログラムの目的と流れを説明。フィールドワークにおける安全上の注意点や、地域への敬意を持って活動することを確認。参加者同士の簡単な自己紹介。(20分)
- 「発見シート」の配布と説明: 事前に作成した「発見シート」を配布。「今日のテーマは『音、色、匂い』です。それぞれのテーマで、地域で見つけたものを書き留めたり、絵や写真で記録してみましょう。なぜそれが気になったか、どんな気持ちになったかもメモすると良いですね。」といった具体的な指示を与える。(15分)
- グループ分けとウォーク開始: 参加者を4〜5名の少人数グループに分ける。グループ内に多世代・多様な背景の人が含まれるように配慮。安全確保のため、各グループにスタッフや地域の協力者が一人つくように配置。指定されたルートを約1時間〜1時間半かけて自由に散策しながら発見活動を行う。(90分)
- 発見の共有と対話: 集合場所に戻り、グループごとに発見したことや気づきを発表し合う。「発見シート」を元に、どんな「音」「色」「匂い」を見つけ、それが自分にとってどのような意味を持ったか、他の人の発見を聞いてどう感じたかなどを共有。模造紙やホワイトボードに気づきを書き出したり、写真を貼り付けたりして可視化する。(60分)
- まとめと振り返り: プログラム全体を通しての気づきや学びを参加者全体で共有。身近な地域にも多くの多様性が存在すること、そして人によって同じ場所でも感じ方や気づきが異なることを確認。これらの気づきが、今後の地域での暮らしや人との関わりにどう活かせるかを考える機会とする。(30分)
使用したツールや資料
- 地域の簡易マップ(ウォークルートを示す)
- 「発見シート」(A4用紙に「音」「色」「匂い」などのテーマごとに記入欄を設けたもの)
- 筆記用具、クリップボード
- 参加者のスマートフォン(写真撮影用)
- 模造紙、付箋、マーカー(共有会用)
- 救急セット、連絡網(安全管理用)
参加者の反応と得られた成果
参加者からは、「普段歩いている道なのに、こんなにたくさんの音や色があったことに気づかなかった」「他の人の発見を聞いて、自分とは全く違う視点があることを知って驚いた」「地域のことをもっと好きになった」といった声が聞かれました。特に、子どもは好奇心旺盛に発見シートを埋め、高齢者は地域の昔の様子を語るなど、多世代間の自然な交流が生まれました。外国にルーツを持つ参加者からは、自国の音や色との違い、共通点に関するコメントがあり、異文化理解の一助となりました。プログラムを通じて、参加者は身近な地域に存在する多様性に気づき、異なる視点を認め合うことの重要性を体感できたと考えられます。
直面した課題とそれを乗り越えるための工夫点
- 課題1:天候への対応。 屋外活動のため、雨天時の実施が困難でした。
- 工夫点: 雨天時でも実施可能な代替プログラム(例: 地域の歴史や文化に関する室内でのスライドレクチャー、多文化に触れるミニワークショップなど)を事前に準備しておきました。
- 課題2:参加者の体力や関心度の違い。 特に高齢者や小さな子ども連れの参加者がいる場合、ルート選定やペース配分が課題となりました。
- 工夫点: 事前に無理のない、休憩地点を設けたルートを設定しました。また、グループ内で互いに助け合う声かけを促し、自由にペース調整できるよう、集合時間と場所を明確に伝えることに注力しました。
- 課題3:グループワークの活性化。 参加者によっては、発見したことの共有や発言が少ない場合がありました。
- 工夫点: グループリーダー役のスタッフや協力者が、積極的に質問を投げかけたり、参加者の発見を丁寧に聞き取ったりするファシリテーションを心がけました。また、「音」「色」「匂い」といった具体的なテーマ設定が、比較的発言を引き出しやすかったと考えられます。
読者が自身の活動に応用するためのヒント
この事例から、読者の皆さんの地域活動に応用できる普遍的なヒントをいくつか抽出します。
- 多様な参加者への配慮:
- プログラムの目的や内容を、誰にでも分かりやすい言葉で伝える工夫が必要です。事前の説明会や個別相談も有効です。
- 年齢や体力、言語、文化背景の違いに配慮した、柔軟なプログラム設計を検討してください。休憩をこまめに入れたり、多言語での簡単な案内を用意したりすることも役立ちます。
- 参加者それぞれの「得意」や「関心」を引き出すような役割設定(例: 写真係、地図係、メモ係など)を設けると、誰もが参加しやすくなります。
- 少ない予算で実施する工夫:
- 高価な機材や特別な場所は不要です。地域の公園、商店街、公共施設など、身近な場所を最大限に活用してください。
- 資料やマップは手作りでも十分です。地域の情報サイトや自治体のオープンデータを活用するのも良い方法です。
- 地域の専門家(歴史家、自然観察家、異文化交流に詳しい方など)や、過去に参加経験のある住民にボランティアとして協力をお願いすることも可能です。
- 活動を活性化させるアイデア(異文化・多世代交流の視点を含む):
- ウォークのテーマを「地域の歴史をたどる」「地域の自然を感じる」「地域のお店と人に出会う」など、参加者の関心を引くものに絞り込むと、焦点が定まりやすくなります。
- 異なる文化を持つ方々に、自分のルーツと地域の共通点・相違点について話してもらう時間を設けることで、異文化理解が深まります。
- ウォークで発見したことを、絵や俳句、写真展、簡単な地域マップ作りなどのアウトプット活動に繋げると、学びが定着しやすくなります。
- 地元の学校や福祉施設と連携し、多世代交流を意図的に企画することも効果的です。例えば、子どもたちが高齢者から地域の昔話を聞きながらウォークする、といった形です。
- ウォーク中に地域の商店や施設に立ち寄り、お店の人と交流する機会を設けることで、地域への愛着と理解が深まります。
まとめ
地域フィールドワークは、特別な知識や高価な道具がなくても、身近な場所から平和や多様性について学ぶことができる実践的な手法です。地域の音や色、匂い、歴史、そして人々の暮らしに触れる体験は、参加者自身の視点を広げ、互いの違いを認め合う心を育みます。
今回紹介した事例や応用ヒントが、地域で平和や共生を目指す皆さんの活動の参考となり、新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。身近な地域を「学びの場」として活用し、多様な人々との豊かな交流を通じて、地域における平和創造の輪を広げていきましょう。